こっちを向いて、


いいえやっぱり向かないで






!聞いてる?」
「幸村様…」
「また幸村先輩見つめてんの?飽きないねえ…」
「琉華ちゃんにはわかんないよ!幸村様、美しすぎる…」
「“様”は無いでしょう、様は!」



そうやって、琉華ちゃんは私のことを馬鹿にするようにケラケラ笑った。
私はムッとふくれながらも、幸村様が居るグラウンドを窓の上から眺めていた。
別に幸村様とは同じ委員会になったことも無いし、全く関わりはない。
話したことは勿論、目すら合ったことも無い。
でも、何故か気づけば私は幸村様に夢中になっていた。
昔からアイドルとかそう言う類が大好きだったから、必然的にそうなってしまったのかもしれない。
ミーハーだって言われても構わない。
だって、素敵なんだもん!



「で、もうすぐ委員決めだけど何か入んの?」
「ん〜…私帰宅部だし、楽そうな美化委員でも入ろうかなって。琉華ちゃんは?」
「あたしは部活あるし、今回は止めとこうかな」
「でもさ、何だかんだ言って誰も手挙げなかったらやるんでしょ?」
「そりゃあね。だって、あの空気耐えらんないし!」
「もう風紀委員とかやるのは、琉華ちゃんの性分なんだって!」



そう言ってグラウンドに目を向けると、愛しの幸村様はどこかへ行ってしまっていた。
琉華ちゃんに文句を垂れると、再び馬鹿にするように笑われた。
はあ、と溜息をつきながら少し体を窓から乗り出し、幸村様を探す。
もう教室に帰っちゃったのかなあ、と考えていると綺麗な青色の髪の毛が見えた。



「幸村様だ!」
「ちょ、声大きいって!」
「え、あ…!」



思わず大きな声を出してしまい、グラウンドに居る幸村様に声が届いてしまった。
幸村様はキョロキョロと、声の方向を探している。
私と琉華ちゃんは咄嗟にその場でしゃがみ込んでいた。
ちょっとだけ、こっちを向いて私に気付いて欲しかったなあ、…なんて。
でもやっぱり、恥ずかしいから一方通行でいいや。



( 貴方は私を知っていますか?私は貴方を知っています。 )