「ね、弦一郎?」 「…なんだ、」 ふふふ、と微笑めばいつも以上に眉間にしわを寄せて、わたしを見た。 2人で帰る道のりは、そんなに長い訳ではないけど、部活で忙しい弦一郎とわたしにとっては大切な時間。 弦一郎は全国大会に向けて大忙しで、わたしは引退公演に向けて大忙し。 「なんでもないよ」と言いながら、繋いだ手をギュっと強く握る。 弦一郎もわたしの手をギュっと握り返してくれた。 それだけのことなのに、笑顔になってしまう。だって、弦一郎のこと、好きなんだもん。 目の前の地面に目を落とせば、2人分の影がしっかりと映っていた。 2人の間には距離がなくて、影もぴったりとくっつていた。 そのことにもっと嬉しくなって、わたしは繋いでいた手を離し、弦一郎の腕に自分の腕を絡めた。 「む、…」 「今日はこうしたい気分なんだけど、駄目?」 「駄目では無いが、転んでも知らんぞ」 「転んだら、弦一郎が助けてくれるでしょ?」 「…お前がもう少し軽ければの話だがな」 「何か言った?」 「いや、何も」 いつも通り、ムッとした表情でそう言う弦一郎。 そんな弦一郎にちょっとだけ腹が立ったわたしは、わざとよろけてみせた。 もちろん、弦一郎の腕を掴んだままだったから、弦一郎もちょっとよろけちゃったけど。 けど、弦一郎はしっかり受け止めてくれた。 絡めていた右腕はわたしの左腕を離さずに、開いていた左腕でわたしの体を支えてくれた。 そしてそのまま弦一郎の方にぐっと抱き寄せられた。 そっと弦一郎の胸に耳を当てると、どくん、どくんと音を立てて鳴っていた。 心臓の音がするのは当たり前のことなんだけど、いつもより激しくなっている様な気がして。 弦一郎にそのことを茶化すように伝えると、寄り一層抱きしめられた。 ああ、わたしも心臓の音が止まりません。 どうかこの心臓の音が鳴り止んだとき、隣に居るのは貴方でありますように。 ( 本当は、いつでもどこでも貴方の傍に居たい。 ) |