ラブストーリー

突然に








「もしも、」
まりあか?俺!ブン太!今家だろぃ?外居るから出て来いよ!急げよ!」
「え、…あのっ、って切れてるし!」



この人は一体、何を言ってるんだろう。
そもそも、今は夜の11時40分…しかも平日。
いつもの丸井さんなら、今はもう家で寝てるはず。

…また訳の分からないことに巻き込まれるのか。
丸井さんを少しだけ信用して外に出ることに。
本当に居たら、とりあえず殴ろう。
嘘だったら、電話がきても出てやんない。

家のドアを開けると、そこには満面の笑みで立っている丸井さんが居た。
…とりあえず、一回ドアを閉める。

うん、私ってば疲れてるのかもしれないな。
最近跡部部長に付き合わされて、毎日コキ使われて疲れてるし。
あと、芥川先輩にも膝枕しろだの、うるさいこと言われて疲れてるし。

もう一度恐る恐る開けてみると、少し不機嫌そうな丸井さんが立っていた。



「あ、本物」
「お前な…彼氏に向かって最初の一言が普通それかよ!」
「じゃあ言わせて貰いますけど、こんな夜中にいきなり何なんですか」
「俺さ、明日誕生日なんだ。んで、まりあに一番に祝ってほしくてさ」
「貴方、馬鹿ですか?そんなことならお断りします。明日早いんで」
「ちょっ、おい、まりあ!」



真っ赤に火照った顔を隠そうと、後ろを向くと、丸井さんが焦って私の腕を掴む。
やばい…今顔見られたら、死ぬほど恥ずかしい。
必死に自分の方を向かそうとする丸井さんの力に抵抗して、そっぽを向く。
携帯の時計をチラ見すれば、12時まで1分を切っていた。
45、46、…50。



「丸井さん」
「何だよいきな、…り」



ドキドキさせられっぱなしなのは性に合わない。
ぐっと丸井さんの襟を掴み、顔を寄せた。
まあ、つまり…キスした。
悪い?べ、別に恋人同士なんだからキスぐらいしたって良いじゃない。
ああもう、私誰に話してんだろ。



「お誕生日おめでとうございます」
「やっべ、…俺、今まで生きてきた中で一番嬉しいかもしんねぇ」
「こんなことで喜んでもらえるなら、…いつでもしますよ」
まりあ、今日泊まって良い?」
「は?」



とりあえず、殴るのを忘れてたので一発殴らせて頂いた。
その後ニヤニヤと笑う親を尻目に、丸井さんを泊まらせたのは言うまでも無い。
だってあの人、一回言ったら聞かないんだもん。
それに着替えとか持ってたし、絶対確信犯だ。

調子に乗って押し倒してきた丸井さんを、もう一度笑顔で殴っておいた。



( ほんとはドキドキしてたなんて、絶対言ってやんない。 )